藤原ヒロシ、スニーカーへの想いを 『Fragment』本誌に込めて―溝口基樹対談
N.Y.の出版社、RIZZOLIから刊行されて話題となった『Fragment』。
日本のストリートカルチャーのカリスマとして、海外でもその名を知られる藤原ヒロシの初となる海外向けの著書だ。
これまでのアートワークや過去に手掛けた仕事、そしてスニーカーをはじめ影響を受けたモノたちが集約されたこの1冊。
藤原ヒロシの全貌を知ることを待ち望んでいた海外のファンたちから、早くも喜びの声が伝わってきているという。
いかにしてこのようなグローバルなブックが出来上がったのか?
今回、藤原ヒロシと本の装丁を手掛けたデザイナーの溝口基樹に、その完成への道程を訊いた。
目次
藤原ヒロシ×溝口基樹
あくまでも海外に向けた自身のアーカイブという位置づけ
──今回の『Fragment』は、ニューヨークの出版社、リッツォーリから刊行されています。どうしてそのような流れになったのでしょうか?
藤原ヒロシ(以下HF) 話が立ち上がったのは、2年ぐらい前のことです。
リッツォーリの担当者とお茶を飲んでいた時に、何か僕の本を出したいと言われたのですが、実際、僕はその時、今までに本に掲載されていない新しいアイテムもあまり持っていなかったし、新たに撮影する時間もなかったので、一度はお断りしたんです。
だけど、これまでに国内で出版した本に使われている写真やテキストを海外向けに再編集すれば、新しい本ができるんじゃないかと考えた。
僕のアーカイブ的な本の海外版はありませんでしたから。
それでゴーサインが出て、今に至るという流れです。
そのまま今までの本とかも全部溝口さんにやってもらって、溝口さんにお願いした感じです。
──これまでに日本国内で出版された本といえば、『the shadow of the official art works』(※1)や『Personal Effects』(※2)、最近だと『Sneaker Tokyo vol.2 "Hiroshi Fujiwara"』(※3)が印象に残っています。
HF 『Fragment』には、それらの本に載っている写真が多く使われていますね。
最近の作ったもので初めて掲載されたアイテムもありますが、基本的には既存の素材を生かして、溝口さんに魅力的に再編集してもらった形です。
あくまで海外に向けた僕のアーカイブ本という位置づけですね。
──リッツォーリから編集内容に関して要望などはあったのでしょうか?
HF 向こうからのリクエストでスニーカーのボリュームを多くして欲しいというような要望はありましたね。
それ以外は、アイテムや写真のセレクトも、ほとんど溝口さんにお願いしちゃったんです。
溝口基樹(以下MM) そうですね。
ヒロシさんが作りたい本の方向性と、スニーカーをフックにしたいというような出版社の要望、その辺のバランスを取りながら編集していきました。
いい意味で期待を裏切る驚きがなくてはならない
──デザインは最初から溝口さんにお願いすると決めていたんですか?
HF そうですね。今回の本に限らず、いろんなところで共同作業をしているので意思疎通もしやすいですし。
──一緒にお仕事をするようになったきっかけは何だったんですか?
MM やっぱり『Boon』(※4)ですかね。
表紙の撮影で一緒になることがよくありましたし。
だから、結構長いお付き合いになりますね。
それから自然と雑誌以外でも2人で仕事をするようになりました。
HF 一番大きかったのは、『the shadow of the official art works』ですね。
この本を一緒に作ってから、いろんな仕事をお願いすることが多くなりましたね。
──ヒロシさんは溝口さんにデザイナーとしてどんな魅力を感じているのでしょうか?
HF グラフィックデザイナーって、自分の個性を出さず、割り切って商業的に仕事をしてしまう人と、自分を主張しすぎて他のことをあまり考えないアーティスト的な人と、極端な場合が多いんですよ。
その点、溝口さんはバランスが取れている。
クライアントや読者の意図を汲み取りながら、いいパーセンテージで自分を出してくれる。
そういう人って、実際はあまりいないんですよ。
MM マジっすか。そう言ってもらえるとうれしいですね。
HF 僕も僕であまり無理を言わないし、強引な指示を出すタイプではないと思っているんだけど、どうですか?
MM そうですね。
かなり自由にやらせてもらっていますね。
僕に一任してくれる仕事は結構多いです。
そういう仕事はやっていてすごく楽しい。
だけど、その分、"どうすれば驚いてくれるかな?"といつも考えています。
いい意味で期待を裏切るようなことをしなくてはダメだと思っています。
─具体的にはどのように作業を進めていったんですか?
MM あまり2人で相談しながら進めるということはなかったですね。
まず、ヒロシさんのアイテムのリストがあって、そこからヒロシさんに使う使わないをジャッジしてもらい、さらに僕の方でセレクトしていきました。
全体の構成としては、『the shadow of the official art works』と『Personal Effects』、と『Sneaker Tokyo vol.2 "Hiroshi Fujiwara"』を合体させたようなイメージを目指しました。
読んでもらえれば、そのような章分けになっているのが分かっていただけると思います。
──既存の素材を用いて新たな見せ方をするには、難しい面もあったかと思います。編集やデザインで特に気を使われた点はありますか?
MM グラフィックワークを紹介した第1章には、見たことのある作品も多く掲載されていると思いますが、それらの作品を違う形で表現したいなと思ったんです。
そのために結構、時間がかかっちゃいましたけど、過去の本と差別化するための工夫はいろいろと盛り込んでいます。
あと、図鑑のような雰囲気が2人とも好きなので、それを意識した装丁に仕上げました。
HF 溝口さんも僕も周りが思っているほどデジタルじゃないんです。
溝口さんはデザインワークのために、スプレーを吹いて作業していたり。
意外にアナログな部分もあるんですよ。
──そうやって完成した本をご覧になって、ヒロシさんはどのように感じましたか?
HF 僕がこれまでにやってきたことをもう一度、溝口さんにリアレンジしてもらう。
そして出来上がってきた結果を見て、うれしいなって思える。
そんな満足感はありますね。
MM ありがたいです。
そう思ってもらえるのは僕にとっても大事なことです。
自分の過去の仕事よりも他人の作ったものに興味がある
──『Fragment』に掲載されているアイテムの中で特に思い入れの深いものはありますか?
HF 実際、僕は自分が昔作ったものにあまり関心がないんですよね。
そういえば、こういうのもあったなっていうくらい。
こういう本を作るのをきっかけに思い出す感じです。
むしろ、他人が作ったものの方に興味があるんです。
他人が作ったものなら、過去のものにも関心がある。
だから、『Personal Effects』や『Fragment』の後半に載っているもののように、僕自身が影響を受けたものは今でも継続的に好きです。
紹介しているギター(※5)やカメラ(※6)は今でも僕にとって欠かせません。
だけど、自分が作ったものだと、手放してしまったものも多々ありますね。
MM スニーカーは結構残っていますよね。
本には載っていないですが、HTMのファーストモデル(※7)などは『the shadow of the official art works』で撮影した当時は新品だったんだけど、履いたり、古くなって劣化したりして。
そんな感じで、一緒に撮影した写真も多く掲載されているので、僕にとっては懐かしさを感じる仕事でしたね。
どのページやアイテムに思い入れがあるというよりは、全体のパッケージとして思い入れがあります。
──お互いに良きパートナーとしてお仕事をされていますが、プライベートでも交流があったり、影響を与え合うということはありますか?
HF 冬は一緒にスノーボードに行ったりしますね。
夏のウィンドサーフィンには付き合えないけど(笑)。
あと、いい物を見つけた時に、お互いに教え合ったりすることはあります。
最近で言うと、デジカメのソニー RX100(※8)とか。
MM あれはいいカメラですよね。
教えてもらって、これは安いと思い、すぐに買いました。
あとはジップロック(※9)ですね。
HF 2人ともジップロックはフル活用しています。
これさえあれば何でもお風呂の中に持ち込めるから(笑)。
──そんな感じでヒロシさんが影響を受ける人って他にもいるんでしょうか?
HF たくさんいますよ。
溝口さんはもちろんそうだし、身近な人が持っているものや、読んでいる本、観た映画。
ある意味、誰にでも影響を受けるタイプです。
もしこの後、"こんな面白いドラマがあるんですよ"なんて雑談になれば、観てみようと思うかもしれない。
その一方で、"この人の言うことがすべて"と思うこともないです。
──かつて、そういう存在だった人物はいますか?
HF セックスピストルズですね。
中学生の頃は、セックスピストルズがクラッシュの悪口を言っていたから、クラッシュは聴かないとか(笑)。
だけど、ピストルズが言うことがすべてではなかったことに、大人になってから気づきました(笑)。
──『Fragment』以外に、お2人が手掛けた最近の仕事で印象に残っているものはありますか?
HF やっぱり『the POOL aoyama』(※10)ですね。
プロジェクトのスタート時から溝口さんに入ってもらって、グラフィック全般をお願いしています。
だから今も毎週のように顔を合わせているんですよ。
イベントもいろいろ企画しているんですが、"アレできるかな、コレできるかな"と楽しく打ち合わせさせてもらっています。
──そんな流れで今後も共同作業で本を作るということはありそうですか?
HF そうですね。
溝口さんがデザインした僕の本をもっと見たいという気持ちはあります。
『Personal Effects』の第2弾のような本もいいかもしれませんね。
MM デジタル全盛の時代ですけど、やっぱり本って形として残るじゃないですか。
HF うん。形になると、やっぱりうれしいもんですよね。