プロデューサー下田法晴が自身を重ねるDVD

DJ・プロデューサーである下田法晴が自身を重ね、思い入れのあるDVD『レスラー』。
あらすじだけでなく、下田自身の思う見どころを紹介。下田法晴と『レスラー』の共通点とは?

i bought編集部

目次

MICHIHARU SHIMODA 下田法晴(SILENT POETS)

 

下田法晴氏

 

 

PROFILE.

 

DJ・プロデューサーである下田法晴のソロユニット。1992年のデビュー以来、これまでに通算7枚のオリジナルアルバムをリリースし“Cafe del Mar”など世界中のコンピレーション・アルバム30作以上に楽曲が収録されている。そして、2013年11月20日に8年ぶりとなる新作、前作『SUN』を再構築したDUBアルバム『ANOTHER TRIP from SUN』、そして『SUN』の新装リマスター再編集盤として、新たにMIXされたトラックを大胆に加えた『SUN Alternative Mix Edition』の2枚を同時に発売したばかり。

http://www.silentpoets.net

 

『レスラー』

『レスラー』

 

購入場所_Amazon   

購入価格_¥1,600

購入時期_2012年

 

主役の役柄、 演じる俳優の人生、 さらに自身の 歩みさえもが重なる作品 『レスラー』について

 

 このおしゃれな洗練された誌面には場違いかもしれないが、ダーレン・アロノフスキー監督の『レスラー』を紹介したい。正直、公開当時に作品観るまでこの監督にもミッキー・ロークにも特に思い入れはなかった。むしろミッキー・ロークには『ランブルフィッシュ』の兄貴役以外で良いイメージがなかった。プロレスには幼い頃から父の影響で馴れ親しんでいて抵抗はないものの、ではなぜ今になってこの映画のDVDなのか……。

 

 ストーリーは当時スーパースターだったプロレスラー、ランディの20年後の話。長年使用したステロイドで身体はボロボロ、人気も低迷、家族も離散し孤独な身、普段はスーパーの食料品売場で働かざるを得ない生活。心臓に持病を抱えながらも、たまに巡ってくるドサ回りのような試合でレスラーとしての誇りを胸に生きている。落ちぶれたとはいえ往年のファンの前だけは、あの伝説のランディであり続ける(それがまた余計にキツかったりするのだが……)。しかし、私生活でかすかな希望をつかみかけるのだが、本来の自堕落な性格が災い、ささいなことでそのかすかに灯った希望すら失ってしまう。そんな彼は、ファンのいるリング上だけが自分の居場所と悟る。心臓の病気の危険を顧みずレスラーであり続けるしか自分の存在理由が見出せなかった。  本当にどうしようもなく不器用で馬鹿な男の生き様に、いつしか同情し共感し、一緒に闘い、涙を流してしまった。スマートで器用な世渡り上手には、どうやっても理解しがたい泥臭くみっともない男の哀愁100%の世界。人生は台本通りには進まない。誰もが躓き失敗し挫折を味わう時が必ずくる。それでも自分の信じたものを胸に地に足をつけて進み続けるしかないのだとしみじみ感じた。

 

 この作品が心に深く刺さったもうひとつの理由が主役のミッキー・ロークのサイドストーリーである。彼も’80年代にハリウッドでトップに登り詰めた大スターだった。しかし当時のテングぶりが災いし、いつしかスクリーンからその顔を観ることはなくなってしまった。ランディ同様に落ちていったのだ。一時は大工の友人にアルバイトをさせてほしいと志願するほど転落してしまったそうだ。そんな彼が人生のどん底でつかんだチャンスがこのランディ役であった。本物のレスラーと見間違えるほどの肉体とオーラを作り上げ、見事に演じきった。演じたというより、ランディそのものになった。結果、作品は数々の映画賞に輝き、彼はどん底から見事にスターへと返り咲いて見せた。映画の中のランディとその役を演じたひとりの俳優の人生がリンクし交差した。彼以外の役者にはこのリアリティは生み出せなかったはずだ。むしろ嫌いなくらいだったミッキー・ロークに心から祝福と拍手を贈った。

 

 ここから自分の話になるが、先日8年ぶりにCDをリリースした。この8年、長かったような短かったような……。その間いろいろなことがあった。それなりの失敗もしたし、裏切りもあったし、苦杯も嘗めた。周りの対応もみるみる変わっていくのも感じた。正直言って活動はほぼ休止状態。一時は誰にも会いたくなくなって、華やかな場所を避けるようにもなった。そんな中で観たのがこの『レスラー』だったから、とても心に響いてしまった。しかし、どんな時も変わらず声をかけてくれ、いつまでも待ってますと励ましてくれるファンの方々の声はとてもありがたかった。それがなかったらどうなっていたか。やがて転機が訪れ、みなさんのサポートによって、自主レーベル設立からリリースの運びとなった今、再び取材などが増え始めた。この原稿のお話をいただいたのもそのひとつ。そしてフッと頭をよぎったのが『レスラー』だった。僕の居場所はどこなのか、これまでと何かが違う旅が始まろうとしている。力を与えてくださった方々にこの場を借りてお礼を言いたい。

 

 

 

※2013年12月発行『i bought VOL.04』に掲載された記事です。

※価格・販売状況は掲載当時のものになります。

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