ホテルニュートーキョー今谷忠弘が選ぶ思い出のDVD

アルバム「yes?」が多くの音楽愛好家の間で話題となっているHOTEL NEW TOKYO(ホテルニュートーキョー)の今谷忠弘がポストロックバンド「モグワイ」をきっかけに知った思い出のDVD『ジダン 神が愛した男』について綴ってくれた。

i bought編集部

目次

今谷忠弘(いまたにただひろ/HOTEL NEW TOKYO)

今谷忠弘氏

 

PROFILE.

 

2003年、今谷忠弘のソロユニットとして、ホテルニュートーキョーを始動。その後はバンド編成による活動を展開。アーバンな質感をベースにしつつも、PUNKの気概を随所に散りばめられたクロスオーバーなサウンド、さまざまなアートフォームを横断した独自の世界観は、リスナーのみならず、多くのクリエイ ターたちからも厚い支持を受けている。6月に3rdアルバム、「yes?」をリリース

 

『ジダン 神が愛した男 ~ZIDANE Un Portrait du2Ie Siecle~』

『ジダン 神が愛した男 ~ZIDANE Un Portrait du2Ie Siecle~』

 

 

購入場所_Amazon   

購入価格_¥2,952

購入時期_2008年

 

ひとりの選手の表情を追い続ける作品『ジダン 神が愛した男』 について

 

 オレは、サッカーが好きじゃない。いや、正確に言うと、サッカーというスポーツが向いていないのだ。

 

 時は、1986年。キャプテン翼とプリプリの「M」が全盛期の時代。運動神経がそれなりに良かった小4のオレは、迷わず近くのスポーツクラブが運営するサッカーチームに所属した。何度目かの練習の後、初めて紅白試合が行われ、ポジションはまさかのDF。FWだと思っていたので多少動揺したが、そこはキャプテン翼時代、オレはカミソリシュートを打てばいいのだとすぐに理解した。試合は0‒0で迎えた後半、ちょうどキーパーの前あたりにポジショニングしていたオレに、ものすごいシュートが飛んで来た。そのシュートは、あのタイガーショットばりに地面を這い、スピードに乗ってホップし、オレの顔面一直線に向かってきたのだった。“あぶない!”と思ったオレは、運動神経がそれなりに良かったので、間一髪ボール避けた。そうだ、DFがボールを避けたのだ。もちろん、ボールはそのままゴールネットを揺らし、その後チームメイトに攻めらたのは言うまでもない。誇り高き敗者の夏であった。

 

 それ以来、サッカー界に背を向けてきたのだが、気になってしょうがない選手がいる。衝撃の引退試合から早数年、今もなおサッカー史上最も偉大なプレーヤーのひとりと評価される男、ジネディーヌ・ジダンである。芸術的なボールコントロールやトリッキーなプレイは、見る者の想像を遥かに超え、感動を与えてくれる。一方で、ギリシャ彫刻みたいな顔して、意外と簡単にキレちゃうところとかは、人間臭くて面白い。この男が、サッカー界のスーパースターだってことは周知の事実。だがオレは、ピッチ上に映るその男のどこか物悲しげな佇まいに、どうしても惹かれしまうのだ。

 

 そんなジダンのDVD、『ジダン 神が愛した男』は、ある1試合を高解像度カメラ17台を駆使し、試合の流れとは関係なく、ただひたすらジダンだけを追いかけた、ドキュメンタリームービーである。

 

 2005年4月23日に開催された、リーガ・エスパニョーラでのレアル・マドリード対ビジャレアル戦。その頃のレアル・マドリードは銀河系軍団時代といわれ、ベッカム、ロベルト・カルロス、フィーゴ、ラウルら、スーパースターたちが所属していたが、カメラは“ジネディーヌ・ジダン”ひとりを追う。試合の流れとは無関係なところで歩いてるジダンを追い、ゴールシーンとは関係ないところにいるジダンを追う。ただひたすらに、ジダンを追い続ける。ジダンの代名詞とも言える“マルセイユ・ルーレット”などの、スーパープレー集的なものを期待しているサッカーファンには、必ずと言っていいほど激しい眠気が襲ってくるであろう作品に仕上がっている。しかしながら、ジダンがピッチを歩き、呟き、唾を吐き、汗を拭うシーンなどを映し出すことにより、彼が試合中、何を考え、何を思い、どこへ向かっているのかというのが、垣間見ることができる。さらに、17台もの高解像度カメラを使用していることにより、今まで見たことのないような映像が構図フェチの脳裏を刺激する。カメラの位置や構図、アングルによって音響の種類も変えており、カメラがピッチ上の選手の視線と同じ高さのアングルの時には、観客の歓声と選手の声が合わさり、よりライブっぽい臨場感を増幅させ、あたかも自分がジダンと同じピッチに立っているような錯覚さえ覚えるのだ。

 

 “この臨場感”を生み出すのに忘れてはならないのが、この作品を音楽を手掛けている“モグワイ”。

 “モグワイ”とは、グラスゴー出身のポストロックバンド。個人的にモグワイ好きというのもあって、この作品を知るきっかけになっている。“モグワイ”のサウンドの特徴でもある、淡々としている中での静と動のダイナリズムがジダンの人間性を表現するのにピッタリで、この作品のストーリーテラー的な役割も果たしている。

 

 最後の衝撃の結末は、まさに静から動へと動き出す瞬間であり、どんなハリウッド映画よりもドラマチックで、エモい。ジネディーヌ・ジダンが、神に愛されていたかは定かではないが、誇り高き敗者は、どこまでも美しかった。

 

※2013年09月発行『i bought VOL.03』に掲載された記事です。

※価格・販売状況は掲載当時のものになります。

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