大根仁が購入して持っておきたい1本のDVD
『HIT SONG MAKERS 〜栄光のJ-POP伝説〜』 DVD BOXSETを手に入れ、オフィスの自分の仕事場に引き蘢ってしまうまでになった大根仁が、“らしい”セレクトの作品へ、想いをたっぷり綴ってもらった。
目次
大根仁(演出家/映像ディレクター)
PROFILE.
テレビドラマの演出からキャリアをスタートさせ、これまでの数多くの映画、舞台、ミュージックビデオからバラエティー番組までを手掛ける演出家・映像ディレクター。コラム執筆やイベント主催など幅広く活動し、代表作となる初監督映画「モテキ」では日本アカデミー賞話題賞・優秀作品部門を受賞する。2015年には監督作品「バクマン。」が全国東宝系での公開を控える
『HIT SONG MAKERS 〜栄光のJ-POP伝説〜』 DVD BOXSET
購入場所_Amazon
購入価格_¥19,980
購入時期_2014年10月
リビングレジェンドの動く姿を見、 その発する言葉を聞くことで グイグイと引き込まれる
DVD『HIT SONGMAKERS 〜栄光のJ-POP伝説〜』 について
最近、事務所内に個人部屋ができた。20年前に今の事務所を作った時は普通のデスクだったのだが、いつの間にかデスク廻りにモノが溢れて、周囲の人たちのヒンシュクを買い、キッチンを改造したスペースを与えられた。
元キッチンなだけに、収納スペースは多い。
それまで溢れていた本や漫画やCDなどはそこに収まった。
しかしそれもつかの間、キッチンスペースもあっという間に新たなブツに溢れ、いつしか"社内ゴミ屋敷"と呼ばれるほど荒れに荒れた。
そして本来の仕事をするPCを置く場所さえなくなり、今度は6畳ほどの会議室を不法占拠した。
2年間その会議室を独り占めしていたのだが、とうとう社員たちから
「いい加減にしろ!」
と閉め出されることになった。
そして与えられたのが、社内で物置きとして使われていた、一日中まったく陽の当たらない湿気とカビが充満した部屋。
おまけにここは幽霊=白いシャツを着た少年が出る部屋として恐れられていて、近寄る者さえいない"社内ワケあり物件"である。しかし広さは10畳、クローゼットもあり、自由に改装して構わないという好条件に惹かれて社内移住を決めた。
まずやったことは棚の設置。
知り合いの内装業者に頼んで壁一面のオーダーメイドの棚を作った。
そして、自宅と社内のあちこちに散らばっていた20年分の本・雑誌・漫画・CD・DVD・レコードなどなどを、クローゼットと棚に収納した。
さらにIKEAで寝泊まりできるくらいのサイズのソファを購入、ネット環境も整え、地上波テレビが映るように配線し、エアコンと空気清浄機も設置、久しぶりにアナログレコードが聴けるようして、以前から欲しかったHDDレコーダー付きラジオも買った。
つまりは、好きな本と漫画と音楽とテレビとDVDとラジオとインターネットに囲まれて、しかも昼寝も寝泊まりもできる"大人の夢の空間"が出来たのだ。そんな部屋を作ってしまったら仕事なんてできるわけがない。
最近のオレは一日中、この部屋に引き蘢っている。
45歳にして引きこもりデビュー。
しかも社内で。
もはや社会問題として常態化した引きこもり問題だが、これは確かに抜け出すキッカケが難しいわ。
居心地の良い、温い地獄だもの。
そんなわけで今回紹介するのは、前々から欲しいと思っていたが、高額ゆえにポチるのを躊躇していた「HIT SONG MAKERS〜栄光のJ–POP伝説〜」DVD–BOXである。
2005年にBSフジテレビで放送された音楽ドキュメンタリー番組で、J–POP史におけるさまざまな重要人物を掘り下げているのだが、中でも「筒美京平編」が最高に面白い。
筒美京平といえば、言わずとしれた日本一の作曲家&コンポーザーだが、その知名度と膨大すぎるヒット曲に反してメディアに登場することは滅多にない。オレも生まれた頃から筒美メロディーに慣れ親しんできたものの、動いている姿はおろか、声すら聞いたこともなかった。
この番組では、"リビングレジェンド"という言葉がこれほどふさわしい人はいない筒美京平がカメラの前に現れ、インタビューに答え、ピアノを弾き、生い立ちや作曲術を語っているのだ。
その佇まいや語り口は惚れ惚れするくらいに
「これぞ天才! これぞ才能!」
であり、上品な語り口の中に時折のぞかせるウィットやユーモアも憎たらしいほどに筒美京平である。
’60年代、’70年代、’80年代、’90年代、’00年代にわたりオリコンチャート1位を獲得し、作曲家としての総売上枚数1位(7600万枚!!)という化け物のような記録を持つ筒美京平だが、インタビュー中でこう語っている。
「フォークやニューミュージックやイカ天以降のバンドブーム、自作自演の人たちの中で、怖いと思った才能はほとんどいない。彼らだって、ヒットする曲は全部歌謡曲のメロディーだもの。でも吉田拓郎の『結婚しようよ』、あれにはちょっと驚いたかな」
そして、
「現在のライバルは?」
の問いにこう答える。
「宇多田ヒカル。あれは新しい。あのコード進行であの和のメロディーを乗せる才能には驚いた」
その筒美京平のうれしそうなこと!
半世紀近くトップを走り続けてきた孤高の天才の前に、やっと現れたライバルは、当時10代の宇多田ヒカルだったのだ。
こんな言葉を聞けただけでも、このDVDを買って良かったと思った。
そして、残りの「宮川泰編」「すぎやまこういち編」「村井邦彦編」「鈴木邦彦編」を観るべく、今日もオレはこの部屋に引き蘢るのです。
※2015年03月発行『i bought VOL.09』に掲載された記事です。
※価格・販売状況は掲載当時のものになります。