achico(アチコ)がお気に入りの映画『wallflower』について語る
映像作品を観る環境って、そんなに種類はないと思う。映画とかであれば、自宅が大半。たまには映し出しができるバーなんかでみんなと一緒に観るのも楽しいと思うけど。
さまざまなミュージシャンが魅了され、多くの作品で客演も務めるachico(アチコ)。いつもベッドで使用しているiBookG4を公園に持ち出して、お昼寝を挟みながら観た、お気に入りの映画『wallflower』について綴ってもらった。
目次
achico アチコ(Ropes)
PROFILE.
ギターの戸高賢史とともに活動するアブストラクトなユニット、Ropesのヴォーカル。2011年の結成後、「SLOW/LASTDAY」(7inch)、「usurebi」(ミニアルバム)をリリースし、海外アーティストとの共演、フェスへの出演などもありながら、ライブハウスを中心に活動中。8月には待望のニューアルバムがリリース予定。
『wallflower』
購入場所_Amazon
購入価格_¥3,600くらい
購入時期_2014年12月
青春時代の自分、 大人になってからの"ともだち" との関係性についてさえも 考えさせてくれる 「ウォールフラワー」について
高校に入りたての頃、いい匂いで前髪がふわっとしてて、モテそうな女の子たちに誘われて一緒にお弁当を食べるようになった。
思ったより早く、友達ができてよかったなーと思った。
3日目くらいに、ふっと横を見たら、机を前に向けたままで、ひとりで颯爽とお弁当を食べてるかっこいい女の子がいた。
その子と目があった時に
「つまんなそうだね、こっちくれば?」
って言われた。
3日間のモヤモヤに、シンプルな名前がついた。
これが「つまらない」ってことなのか。
その日からわたしの高校生活は、とても楽しいものになった。
そして今も、わたしは、その竹を割ったような性格の友達と仲がいい。
どんどん思い出すなぁ。
高校生の溜まり場になってるダイナー風の店があってそこでその子とよく待ち合わせをしてた。
そこは煙草を吸っても怒られないから人気だった。
アンナ・カリーナが煙草を吸ってる写真を初めて見たとき、
「ほんとかわいい……」
ってドキドキしたな。
その店にはジュークボックスがあって、みんな結構利用してた。
ちょうどその頃は、誰かがニルヴァーナをよくかけてた。
友達や恋人との出会いは、わたしたちの人生にいくつも変化をもたらす。
映画をいろいろと観るようになったのは、30歳を過ぎてから。
きっかけは、映画好きな友達と音楽を始めたことだった。
今こうして寝転がって観ている映画も、とある映画好きの友達に教えてもらって観たものだ。
とてもいい映画で、教えてもらえてよかったな、と思っている。
映画の主人公、チャーリーは小説家を志望してる孤独で内気で、そしてやさしい少年だ。
誰にも話していない重大な秘密を抱えて、ひっそりと高校生活を過ごしている。
そんな彼の生活も、陽気でエキセントリックなパトリック、美人で奔放な性格のサム(エマ・ワトソンかわいい!)、この兄妹との出会いで一変する。
主人公のチャーリー、スミス好きなのもいいですね。
ロッカーに貼ってあるモリッシーの写真とかやばい。
劇中、カセットで「asleep」がかかるシーンはもう鷲掴み。
わたしも高校生の時スミスよく聴いてたし、カセットテープ世代だし……(他に劇中でかかるのはコクトーツインズ、ギャラクシー500、ニューオーダー、XTC、ソニックユースなど、青春感の大洪水)。
何かを軸に、グラデーションのように静かに変化していく映画が好きだ。
登場人物にはそれぞれにそこそこの問題や事情があって、彼らの心象風景がじわじわと移り変わっていって入り込んでくる。
ぎゅーって抑圧したような状態で夢中になっていくうちに、はっと気がついたらいきなり思いもしなかった場所に立たされて全景を見せられてる、みたいな。
現実から遠いような、でも案外近いようなフィット感。
それにクラクラする。
「ウォールフラワー」では、同じ言葉、同じ場所が何度か登場する。
でもそれらは出てくるごとにまったく違うものとして登場してて、実にドキドキさせられる。
ラストシーンはすごいハッピー、というわけではないかもしれないけど、何回観ても素敵だ。
トンネルの中を走り抜けるピックアップ・トラック。
カーステレオから聴こえてくるデヴィッド・ボウイのあの曲(最高!)や、トンネルの中で車の荷台に立ち、風を受けながら「僕は無限だ」というチャーリーの言葉が、そしてサムとのあのシーンが! 余韻となって、わたしたちの今日を包んでくれる。
大人になった今、ともだちがひとりできたとする。そしてある日、その人の家に招待されたとする。
例えばそこが、思いのほか真新しく、まだ何もないキッチンとか、テーブルのない部屋だったとする。
入り口の少し先に立って、ともだちはとても自然な様子で笑ってる。
多分わたしはまず、そのともだちの"自己開示感"みたいなものに少し圧倒されるだろう。
なんかよくわかんないんだけど、どこかの遺跡にでも足を踏み入れたようにその人の時間が部屋で反響してて、それだけですこしドキドキしてしまうだろう。
大人になったからだろうか。
そういうことが、どんどん透明に感じるようになってるのは。
以前見たことのある同じような光景と何かが大きく違って美しいと感じてしまうのは。
わたしたちの暮らしの中には、思いがけずドキっとする瞬間がいまだに潜んでいて、突然姿を見せる。
そして、それを見つけた時、人は独りではないのだなと感じたりする。
どんなふうにしていたって、独り、と、独りじゃない、の繰り返しなのだ。
でも、それらが同じ表情でやってくることは一度もない。
※2015年06月発行『i bought VOL.10』に掲載された記事です。
※価格・販売状況は掲載当時のものになります。