BOUNTY HUNTERヒカルら3人のパンクアイテム購入談義
パンクというカルチャーに精通し、今もなおその探究心が衰えない、BOUNTY HUNTERヒカル、PEEL&LIFT細谷、black means小松の3人。
その一線を画す突き詰め方には、常にPUNKアイテムを欲しがるということから始まる。
それぞれが作り出すプロダクトにも反映される、最近買ったPUNKアイテムについて、買い物の仕方について、初となる対談を実施してもらった。
目次
欲しいものへは、あらゆるコミュニケーションを駆使して近づく3人
──こうやって3人で集まって話すことってよくあるんですか?
ヒカル 待ち合わせして会ったのは初かも。行動範囲が近いのか会うのはよく会うよね。店にいるとよく小松がバイクでバオーンって通るんだよね。あのバイクが通るとみんな「ワー!」ってなるでしょ。
小松 時間を決めて会うってことはないですよね。いろんなとこで会った瞬間に話すというか。
──いつもどんな話をしてるんですか?
小松 パンク世間話ですかね。「あれ知ってる?」とか。
ヒカル まさにそれかも。小松はハードコア寄りで細谷はピストルズ寄りでしょ。偏ってるよね。2人ともそうなんだけど、好きなものの突き詰め方がオカシイ。2人ともちょっと進化させてるし? 普通そこで終わるでしょってとこにさらに盛るし。
小松 ピストルズとかセディショナリーズって過去のものだから壁があるじゃないですか。でも細谷さんは壁にぶつかったらその壁を破っちゃってるから。
細谷 僕の中では1977年がずっと続いちゃってるんですよ。
ヒカル 逆に俺は小松がスゴいの作ったって話をよく聞くんだよね。そして実際見ると「どうなってんだこのズボン!」みたいな。
小松 僕はハードコアそのままじゃなくてちょっと変えていってるんですよ。日本のハードコアっていうのはUKのままでもないし、変わっていくのが当然かなって。そういう考えなんで、セディショナリーズの新しいものは増えないとしても、ピール&リフトみたいにアレンジされて時間が経っていく先の未来っていうのも見てて楽しい。
ヒカル ヤベー!「NO FUTURE」じゃないんだね。「CATCH THE FUTURE?」。なるほどな。みんなひとつのことをクーッと突き詰めるのが好きだよね。みんなオタクでマニアなのかも。いろんな意味で。
──当時はまだ情報も少なく、みなさんが欲しいアイテムを買うのは大変だったと思います。いろいろな方法があったと思うんですけど、どうやって買い物してたんですか?
細谷 基本は足で街で情報を拾ったり、ネットワークで自分が好きなものを知ってるヤツや持ってるヤツがいたら、どこだろうが会いに行ったりだとか。それが海外でも直接行ってた。
ヒカル 俺は常にその時のマイブームを会った人誰にでも言う。全員に。昔からそうなんだけど、「あれのなんとかが欲しい」とか、関係ないものでも全部言うかも。そうするとインターネットのない時代なんだけど変なネットワークがあって、「あそこにありましたよ」とかって情報が勝手に入ってくる。
小松 ネットワークが完全に出来上がってるんですよね。僕も10代の頃は仙台に知ってるヤツがいるらしいとか、名古屋にいるらしいとか、もちろん東京にもいるんですけどそういう人を辿って。
細谷 狭い中での有名なヤツがいるんだよね。
小松 当時は革ジャンとかマーチンも日本じゃ全然買えなくて、UK行く人に頼んだりしてませんでした?
細谷 ルイス・レザーとか5000円くらいで売ってたもんね。「なんで探してんの?」って向こうのバイヤーに言われたもん。
ヒカル 俺は行って買った。色ジャンもロンドン行った時初めて買った。『シド・アンド・ナンシー』って映画でシドの友達が赤い革ジャン着てて、「色ジャンってあるんだ!」って知って、ロンドン行ったら青い革ジャンがあってそれ買って帰ってきた。
──今までで一番苦労した買い物ってなんですか?
細谷 ヴィヴィアン・ウェストウッドを集め出した頃、コレクターづたいで大阪のコレクターに巡り会って、あるものを売ってもらうって話になったんだけど途中でこじれて、「どないなっとんねん?」みたいな電話が家にかかってきて、「売ったるけど大阪1回来いや」ってなって行ったら、三角公園の近くで20人くらいのパンクスに囲まれた(苦笑)。
一同爆笑
細谷 「大阪のパンクスなめとったらあかんぞ」って。あれはちょっと焦った。今でも覚えてるよ、真夏のクソ暑い日。
小松 僕はエクストリーム・ノイズ・テラーの海賊盤のライヴ盤ってのがあって、UKで誰かが勝手に出しててメンバーのディーンが怒ってたんですよ。僕それが欲しくなっちゃって。で、その時ディーンが「ラフィンノーズのファーストシングルが欲しい」って言ってて、僕ちょうどそれ持ってたから、「その海賊盤のライヴ盤が欲しい」って言ったら、「なに!」って感じで怒ってて。自分で自分のバンドの海賊盤を買うって結構な屈辱じゃないですか? でも、その海賊盤をディーンがなんとか手に入れて送ってくれたんですよ。そしたらその中に、「このレコード自分が買うってことはどういうことか」みたいなのを書いた手紙が入ってたんです。
ヒカル 本人にやらせるのがスゴいよね。しかもブートで、本人が怒ってるものを。英語で一筆入ってたんだ。でもそれだけラフィンが欲しかったんだね(笑)。
細谷 まあでも、相手がミュージシャンでそれが自分の音源であろうと、対等なコレクター同士の取り引きですよね(笑)。
ヒカル 俺は常に苦労したいんだよね。すべてのものに対して。金とかじゃなくて、いろんなコネはすべて使って。宝探しじゃないけど、ひとつひとつのものに「あん時こうだったな」みたいな思い入れがある。金でなんとかしたことはないかな。ネットが出てきて前よりも欲しいものが手に入りやすくなったけど、金さえあれば買えるんじゃつまんないし。「あ、あったー!」みたいなのが欲しいかも。
小松 手に入れる時のコミュニケーションとかがあったほうがいい。ライヴハウスだったりイベントだったり人が集まってる場所があるじゃないですか? そういう場所で誰かとって。探すにしてもいくらか運命的で自分の行動範囲の中でっていうのが。
ヒカル わかるわ。縁だよね、なんでも。俺は食欲とかよりも物欲が一番強いと思うよ。それがなくなったら動かなくなると思うな。逆に最近のブームはハードじゃなくてソフトなもの。すぐ買えるものが好き。簡単に探さなくても買えるものが好き。
──みなさんにとって買い物という行為はどういうものですか?
ヒカル 俺にとっては栄養だね。それがないと死んじゃうかな。お腹減ったらご飯食べるじゃん? 俺は心も減るから心減ったら買い物だね。それで心埋まるから。
細谷 自分の欲求を満たすためのひとつかな。こんなの別に集めてもね。とりあえず確認するだけで満足しちゃうし。
ヒカル 「MAD MAGAZINE」はまだわかるけど、「PLAYBOY」は、誰も「エー!」って言ってくれないぞ(笑)。俺がいてよかったな!
細谷 (自分で出力してきた写真を見ながら)これと同じ写真が撮れれば満足なんですよ。10年くらい前にeBayが普及し始めた時にスッゲーハマって、自分の脳内が裏に裏に入っちゃって、そういうものをどうやったら見つけられるかっていうのを毎日考えてて、今日持ってきたものもそんなものの一部。
小松 僕は買い物は自分を完成させるためのものというか。完成はしないんですけど、今までいろんなものを買ったり作ったりしてきて、それでも満足できてない状態なんで、そこに何かが追加されることで完璧に近づけたかなって思える。知識とかも含めて買うもので、当時わからなかったことや新しい音源が出てくることで、当時の空気感が自分の中に出てくると思う。今、当時と同じ空気を再現することはできないんで、自分の思う空気やイメージに一番近いものを作るようにして。出来上がってみたら違う空気感になってるんですけど、それがまた楽しい。
ヒカル 欲しいとか、探してるとか、そういうものがあるからブランドをみんなやってんだよ。買えないから作る。
ヒカル(BOUNTY HUNTERデザイナー) BOUNTY HUNTER(バウンティーハンター)デザイナー。1995年、原宿にUS TOY&PUNK ROCKがコンセプトのショップをオープン。 |
細谷武司(PEEL&LIFT(ピールアンドリフト)デザイナー) UNDER COVER(アンダーカバー)本店店長を経て2005年に独立、ブランド設立。一時休止の後、一昨年よりブランド再開し今に至る。 |
小松雄二郎(black means(ブラックミーンズ)デザイナー) 1971年東京生まれ。パンクショップ、数々のコレクションブランドを経て2005年にレザーウエアの製品加工チーム「black means」をスタート。2008A/Wよりレザーブランドとして活動を開始 |
※2013年06月発行『i bought VOL.02』に掲載された記事です。
※価格・販売状況は掲載当時のものになります。