クリエイター箭内道彦が刺激を受ける身の回りのものとは

箭内道彦はタワーレコードをはじめ、数々の話題の広告を手掛けるクリエイティブディレクター、新しい形のフリーマガジン、「月刊 風とロック」の編集長、紅白にも出演した「猪苗代湖ズ」のギタリストなど多彩な顔を持つ。
箭内道彦のインスピレーションの源である買い物やモノについてのインタビューをご紹介。

i bought編集部

目次

他人とは競合しないモノ それが箭内道彦のクリエイティブを刺激する

 

箭内道彦

 

──箭内さんの身の回りにあるものも、ご自身同様、クリエイティブ同様、個性に溢れています。普段、どのようにもの選びをされているのですか?

箭内 僕が欲しいと思うものは特殊なものが多いんです。服でもギターでも、自分が買わなかったら誰も買わない、店で売れ残ってしまうだろうというものを見つけると“買わなきゃ”という使命感が生まれてくる。誰も買わないような、他人とまったく競合しないような商品との一期一会、それを大切にしているんです。出会ってしまったら買う、いわば“出会い系ショッピング”。そんな感じだから、僕が着ている服を見て、“同じのが欲しいから買った店を教えて”なんて言われたことは一度もないですね。“そんなものどこで売ってるの?”って聞かれることはあるけれど(笑)。あとは“仇買い(かたきがい)”ですね。最近の僕の買い物はそれに近い。小、中、高、大学となかなか欲しいものが買えなかった。中学生の頃は、ギブソンのギターなんて一生買えないだろうと思っていた。そんな中学生時代の自分に今持っているギブソンを見せてやりたいなんて思ったりして。当時の境遇への復讐としての買い物というか。あまり良いことではないですけどね(笑)。

 

箭内道彦

 

──ご自身は物欲が強い方だと思われますか?

箭内 何かを所有したいという欲は、僕には正直あまりないんです。物欲には所有欲と購買欲の2つがあると思うんだけど、僕は購買欲が勝っていて、ものを買った瞬間に目的が達成されて満足してしまうことが多い。ただ、一度買おうと思ったら、買うのを諦めるのがイヤなんです。それがストレスになってしまう。結婚していないから現実はわからないけど、多分、結婚したら何か買う時に相談して許可をもらったり、黙って買ってケンカになったりすることが起きると思うんです。そういうストレスがないのが結婚してないことのメリットのひとつですね(笑)。何かを買う時に1ミリも引け目を感じたくない。会社から独立して良かったことって、自分で決裁権が持てることなんですよ。だから、買い物に対しても同様にフリーなスタンスでいたいですね。ただ、豪邸を買うとかロールスロイスを買うとか、そうしたとんでもないものを買いたいとは思いません。いや、欲しいと思ったら買う方法を考えたり、諦めてストレスを感じてしまうので、思わないようにしているという方が正確かもしれません。(笑)

 

──広告の大きな目的のひとつは商品を買ってもらうことにあると思います。買い手のことをどのように考えて広告を制作するのでしょうか?

箭内 CMは面白かったけど商品は売れなかったというのが一番イヤなパターンです。だから、どうしたらその商品を欲しいと思ってもらえるだろうということを考える。そうすると、やはり“これを買ってもらえれば、あなたは幸せになれますよ”と自分が責任を持って言えるような商品でないと広告は作れない。美味しくないものを美味しいって言ったり、安くないものを安いって言ったりするような広告の作り方はしないように心掛けています。僕はその商品が世の中をどう幸せにできるか、その商品を作った人がどんな思いを込めているか、そういうことを広告でちゃんと伝えたい。言ってみれば、対面商売の小売りのような感覚で広告を作っています。人ってみんな何らかの形で親の仕事を継いでるというのが僕の持論なんです。例えば、広告を作るにしても、親が建築家だと広告も構築的になったり、親が医者だと治療的になったり。僕の場合、実家がお菓子屋さんだったので、小売り的な感覚があるのかなと思っています。

 

──商品から広告クリエイティブへ具体的にどのように道筋を繋げていくのでしょうか?

箭内 クライアントへのヒアリングやマーケティングのデータも当然参考にしますが、最終的には商品と自分との繋がりを見つけることを考えますね。自分が好きなものとか、興味があったものなら、使い手のひとりとして、その商品を広告できる。だけどそうでない場合もある。例えば、以前、レディースの服の仕事の依頼が来たんだけど、もちろん着たこともないし、自分との関係性が見出せなかった。だから一度は断ったんです。だけど、その後、“その服を着る女性たちを自分が応援する”という形の関係性を見出すことで広告を作ることができた。また、“母と子”をテーマに食品の広告の依頼が来た時も悩みました。僕は結婚もしてないし、もちろん子どももいない。母でも父でもない。だけど、“世界中の人間は全員母から生まれた”ということに気づいたら、商品がグッと身近なものに感じられたんです。僕はそういう接点が見つからないと広告が作れない。以前はそれで仕事を断ったこともあったけど、昔に比べて今は接点の見つけるのが上手くなった。接点の見つけ方を見つけたんです。

 

箭内道彦

 

──身の回りのものたちはクリエイティブにどのような刺激を与えてくれますか?

箭内 僕は16年前からずっと金髪なんです。金髪なのにいまいちなものを作っていたら恥ずかしいでしょ? そうして自分を追い込んだんです。ギターが上手くなりたいなら、良いギターを買えとよく言いますけど、それに似たところはあると思います。派手なコートを買ったとしたら、それに見合うだけの企画を出さなきゃというプレッシャーがかかる。そんな風にものが自分を背伸びさせてくれるように感じることはあります。

 

──最後に、最近印象に残っている買い物はありますか?

箭内 やっぱり「月刊 風とロック」ですね。自分が欲しいものを自分で作って、印刷所にお金を払って自分のために買っているようなものですから。贅沢な買い物ですよね(笑)。

 

※2014年03月発行『i bought VOL.05』に掲載された記事です。

※今号に掲載されている商品の価格は全て税抜き価格となっております。(以前購入した私物を除く)

※販売状況は掲載当時のものになります。

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異端のインスピレーションの源 箭内 道彦のクリエイションの根源をなすモノ

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