映画監督・平野勝之らクリエイターが旅行先で出会った逸品 10選
BEAMSメンズディレクター中田慎介、映画監督・平野勝之ら10人のクリエイターが、旅先で出会った運命の一品を紹介。
クリエイティビティーを刺激するために、旅は欠かせない。琴線に触れる逸品を持ち帰り、クリエイティブの源とする。それは、ものを生み出す人間にとって大切な営み。
運命の逸品からクリエイターたちは何を得たのか? じっくり見ていこう。
目次
ナマイザワクリス / Chris Namaizawa
VINTAGE PICTURE FRAME
「僕は生まれてから3歳まで、そして大人になってから約2年前までサンフランシスコに住んでいました。このヴィンテージの額縁は、サンフランシスコを拠点にアメリカを旅していた時に、フリーマーケットで見つけたものです。全部で20個近く購入しましたが、100年ほど前のものも含まれています。もともとはシンプルな額縁だったのですが、そこにサンフランシスコで出会った新旧の印刷物を貼り付けて作品にしました。自分のルーツでありながら、長く遠ざかっていた土地で出会った旧い額縁。その中に何が見えるのかを表現したかったんです」。
ナマイザワクリス(現代アーティスト)
サンフランシスコ出身。2006年にサイバーエージェント入社。同年、アパレルブランド「Theater8」を設立。その後、独立してアーティストとして活動。サイバーエージェントのクリエイティブディレクターも務める
さいとうみのる / Minoru Saito
AMOSKEAG SAMPLE BOX
「旅をする時は、各地の民族博物館やアンティーク・骨董・古着店を巡り、資料として古布や古着を購入することが多いです。中でも特に藍(インディゴ)で染められた作業着に興味を持ち、歴史や成立ちを紐解くことが旅の重要な目的となっています。19世紀にアメリカで生まれた作業着と言えばインディゴデニム生地の上着とズボンですがその歴史を辿ると、アモスケイグ社に行き着きます。同社について調べる中で手に入れた貴重な資料のひとつがこのボックス。糸見本を入れてあったもので、中は細かく仕切られ、当時使用されていたさまざまな糸の名前が記されています」。
さいとうみのる(CANTONデザイナー)
アメリカンワークウェアを手掛けるブランドで修行。その後、世界の作業着の研究を元にオリジナルブランドに着手する一方、’63年に誕生した日本最古のジーンズブランドCANTONのデザイナーを務める
中田慎介 / Shinsuke Nakada
INDIAN JEWELRY
「現地で親交を深めてきたホピ族のマイスター、ジェイソン・タカラのバングルやサントドミンゴ族のネックレスなど、旅先では印象的なインディアンジュエリーと出会います。海外はバイイングのために訪ねることがほとんど。仕事なのでスケジュールは決まっていますが、思いがけない出会いも大切にしています。ニューメキシコの山奥で自身で組み上げた家に住み自給自足で暮らしている現代のヒッピーと出会ってモカシンを別注するようになったこともありますから。バイヤーに必要な素質はとにかく気になった人に突っ込んでいける度胸ではないでしょうか」。
中田慎介(BEAMSメンズディレクター)
1977年生まれ。大学卒業後、BEAMSに入社。BEAMS PLUSに配属後、2012年よりBEAMSのチーフバイヤーを務める。また、今年3月からはメンズディレクターに就任。数々の良質なアイテムを日本に紹介している
平野勝之 / Katsuyuki Hirano
BROWN BEAR CLAW
「初めて自転車旅行に出たのが20年近く前。それ以来、お気に入りのランドナーに乗って、何度も北海道を回っています。長い時は4ヶ月間行きっぱなしだったことも。旅に出る時は自転車用バッグに“長期家出セット”と呼んでいるキャンプ道具一式を詰め込みます。愛用のキャンバス地のバッグももう20年近く修理しながら愛用しています。そのフロントバッグに付けているのが阿寒湖近くでハンターから買った野生のヒグマの爪。手に入れた時はまだ獣の臭いが漂っていました。今では僕の自転車のシンボルでありお守りのような存在です」。
平野勝之 (映画監督)
1964年生まれ。1984年に長編8ミリ映画「狂った触覚」でぴあフィルムフェスティバル入選。翌年には「砂山銀座」で、翌々年には「愛の街角2丁目3番地」で連続入選。2011年公開の「監督失格」が大きな話題となる
紺野真 / Makoto Konno
ANIMAL MOTIF POTTERY
「年に2回、海外を旅します。1回は半分仕事でフランスと周辺国を訪ね、レストランやワイナリーを回ります。もう1回はプライベートでアジア諸国へ行くことが多いです。旅先ではよく蚤の市に行きます。職業柄、皿や器などをお土産に買うことが多いですね。買った器や調理道具はお店で普通に使います。イノシシの頭が付いた器はアルザスの陶器でパテを作るのに使っています。素焼き風の茶色の陶器は中に小麦粉を練ったものを詰めてヒツジ型のお菓子を作る道具。ネズミがモチーフの器はおそらくカンボジアのクメール朝時代の旧いものです」。
紺野真(organ/uguisuオーナーシェフ)
1969年生まれ。高校卒業後、ロサンゼルスに移住。’97年に帰国し、カフェやビストロで働いた後、2005年に「ウグイス」を三軒茶屋にオープン。2011年には2号店となる「オルガン」を西荻窪にオープンした
丸山智博 / Chihiro Maruyama
Château d’Estoublon OLIVE OIL
「旅で訪れるのは主にフランス。いつも好きなレストランを軸に、パリの日本人の料理人の店を巡って手伝いをさせてもらったり、現地のコミュニティーと繋がり、東京でイベントを開く企画を立ち上げたりという具合。プライベートな旅のつもりで、どこかで仕事を求めているように思います。このオリーブオイルは、パリから少し離れたところにあるロアンヌという街の有名な三ツ星料理店を訪ねた際、近くの普通のショッピングモールで買ったもの。フランスらしい美しいデザインが気に入りました。まだ開封していませんが、早く料理に使いたいですね」。
丸山智博(cherche inc.代表)
1981年生まれ。大学卒業後、料理学校で学び、フレンチレストラン等で経験を積む。独立後の2010年、代々木上原に「MAISON CINQUANTECINQ」、’12年に「Gris」、’14年に「Lanterne」をオープンした
南澤孝見 / Takami Minamisawa
EXOTIC FABRIC
「毎年1回はプライベートな旅をするようにしています。興味のある場所を訪ねることもあれば、ずっとビーチでゴロゴロしていることもある。完全にリフレッシュのための旅です。訪ねる国は、発展途上国が多いですね。モロッコはかなり好きでした。フィリピンは毎年必ず訪れます。トルコやインドネシア、タイもいいですね。そういう国へ行くと必ず現地のファブリックを買ってきます。アンティークもあれば現代のものもある。購入したファブリックは自宅のインテリアにしたり、趣味でやっているバーに置いたり、実用的に使っています」。
南澤孝見(IMPERIAL RED FORCEデザイナー)
1998年にSAMURAI STUDIOを設立し、建築を中心に、幅広いデザイン、美術活動を展開。多くの音楽、アートイベントのオーガナイズも手がける。2014年よりアパレルブランドIMPERIAL RED FORCEを展開中
井上典聖 / Norikiyo Inoue
ANTIQUE STAMP SET
「以前、ロンドンに留学していた時はお金に余裕があればアンティークばかり買っていました。今は仕事でフランスに年に数回行くのですが、その時もマーケットは必ず訪れるようにしています。このアンティークのスタンプセットは、パリでも有名なクリニャンクールの蚤の市のジュールヴァレ地区で購入したもの。’20年代から’50年代くらいに作られた旧いものです。レザーのケースは自分で作りました。インダストリアルジュエリーのブランドをやっているのですが、このスタンプを使って昔のモチーフを打ち込むといい雰囲気が出るんです。これからもっと活用していきたいですね」。
井上典聖(UMBERJADEデザイナー)
1976年生まれ。文化服装学院卒業後、ドメスティックブランドにて企画・生産を担当。独立後にインダストリアルアート&クラフトをコンセプトにしたブランド「UMBER JADE」を設立。独自の世界観を展開している
kakuei
COHIBA CIGAR
「フェスに出演するために海外を回ることはよくありますが、プライベートな旅でとくに印象に残っている国はキューバ。パーカッションをやっているので、キューバ音楽を探究したくて5年ほど前に訪ねました。現地ではグラミー賞も受賞したイラケレというバンドのパーカッショニスト、オスカー・ヴァルデスさんにコンガを教えてもらったり、毎晩ライブハウスをハシゴしたり充実した時間を過ごせました。楽器以外はあまり自分へのお土産は買わないのですが、キューバでは珍しく葉巻を購入。家で楽しんだり、友人にあげたりして、あと2本だけ残っています」。
kakuei(パーカッショニスト)
大学在学中に民族楽器アサラトと出会い、リズムの世界への追求を志す。現在はパーカッショニストとして活躍中。OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUNDでも活動。楽器パチカの商品化にも携わる
森岡督行 / oshiyuki Morioka
OLD PHOTO COLLECTION
「9年前にプラハに古書の買い付けに行きました。現地の知人からいい書店があると教えてもらい、訪ねてみましたが、もう店が閉まっていた。翌日は移動する予定だったため、どうしても中を見たくてドアを叩いたらお店の人が出てきてくれました。すると、タンゴの練習から帰ってきたら入れてくれるとのこと。深夜0時過ぎまで待って、中に入れてもらうとそこには素晴らしい本がたくさんありました。その時仕入れた本の中でずっと手放さなかった1冊がこの写真集です。第二次大戦中に出版されたとは思えない美しい花の写真には、今も魅了されます」。
森岡督行(森岡書店代表)
1974年生まれ。1998年に神保町の古書店「一誠堂書店」に入社。8年間の経験を積み、’06年に茅場町に「森岡書店」をオープン。今年5月には展覧会と連動して“1冊の本を売る書店”、「森岡書店銀座店」をスタートした
※2015年06月発行『i bought VOL.10』に掲載された記事です。
※価格・販売状況は掲載当時のものになります。