栗野宏文の一番の愛用品 靴
ユナイテッドアローズ クリエイティブディレクション担当 上級顧問 栗野宏文が紹介する一番の愛用の靴を紹介。
日本のファッション界の重鎮という立場で、どのような目線で定番のDr. Martensの靴を見ているのか語る。
栗野宏文の一番の愛用品 靴 TOKYO TIMES Column
目次
Dr. Martens
PLAIN-TOE SHOES
クリノはたくさんの靴を所有しています。数が多い順に《ニューバランス》、《オールデン》に続くのが《パラブーツ》、《チャーチ》、《ロサモサ》、《エシュン》。そして年々増えつつある靴が《ドクター・マーチン》です。数えてみたら、英国製、アジア製と全部で5足ありました。
《ドクター・マーチン》と《コム デ ギャルソン オム ドゥ》のコラボレーションモデルもお気に入りの一足です。同ブランドは5年前にリニューアルのお手伝いをしましたが、その際、新生オム ドゥには、アッパーのデザインがクラシックでソールはラバーの履きやすい靴が合いそう、と思っていたのでこのコラボレーションの登場には心中密かに喝采しました。この協業は毎シーズン継続中で、先日東京で会った《ドクター・マーチン》のロンドン・クリエイティブチームは「自分たちの誇り」と喜んでいました。
《ドクター・マーチン》というブランドは’80年代から知っています。トゥの部分にスティールが内蔵されているモデルの先端の革をカットし金属を意図的に見せる技や、さらにそれをピカピカに磨いて強調する履き方は’80年代後半のロンドンを象徴するスタイル。 「コレはファッションではなくワーキング・クラスの魂」と主張しているかのような履き方に見られるように《ドクター・マーチン》というブランドは単なる靴ではなく、ファッション・グッズでもなく、常に何か“カルチャー”や“スピリット”を感じさせる存在です。
東京に暮らし、下北沢や高円寺といったサブ・カルチャー/ユース・カルチャーが生きている街を歩いていると《ドクター・マーチン》に思いを込めて履いている若者たちに遭遇します。ブランド発祥の地である英国と同等、あるいはそれ以上に日本において《ドクター・マーチン》という靴は意味を持って履かれ愛されている気がします。例えばバンドを始めようとする若者が、まず《ドクター・マーチン》を手に入れることから始める……ように。
クリノはそういう気概に共鳴し、感動します。永年ファッションを生業としてきて、モノとヒトとのこうした付き合い方は稀有であり、かつ、美しいとも思うのです。
僕自身の《ドクター・マーチン》との付き合いは、そういったあり方をリスペクトしつつ、さらに自分らしいものでありたい、と思っています。クリノが考える《ドクター・マーチン》はクラシックでありながらクラシックを超えた存在。自分が通り一遍ではない着方をしたい時、ある種の“ヌケ感”が欲しい時にも頼りになる靴です。
英国調のスリー・ピース・スーツを着てもキメキメにしたくない時。《リーバイ・ヴィンテージ》をロールアップで履いても、アメリカン・ノスタルジーにしたくない時。チノパンツを履いても休日のおとうさんやN.Y.トラッド野郎になりたくない時……。そんな時にお役立ちなのが《ドクター・マーチン》なのです。
今年、よく履いた《ドクター・マーチン》がカーフ素材の3アイレットの黒いプレーン・トゥで、このモデルのステッチは本体と同色。それに「ユナイテッドアローズ」で売っているキルトをアタッチ。気に入っているスタイルは短めのパンツに白いコットンリブソックスを履いて《ドクター・マーチン》という合わせ。雨の季節も、暑い夏も《ドクター・マーチン》を楽しみました。
今、秋・冬、《コム デ ギャルソン オム プリュス》のショート丈のダブル・ブレステッドのジャケットを購入したのですが、そのジャケットをあまりモード的なニュアンスで着たくない日のインナーにはクルーネック、パンツは丈短、それに、やはり白い靴下と《ドクター・マーチン》で纏めました。
どことなくマヌケな仕上がりが気に入っています。そんなこと誰も気にしないでしょうし、自分でもバカだな、と思います。
しかし“自分で服や靴を選ぶ”という行為は、モノ自慢でもなく、目立ちたがりでもなく、自己確認・自己発見だと思います。そんなことを考えているクリノに《ドクター・マーチン》は頼りになる味方です。
栗野宏文
ユナイテッドアローズ クリエイティブディレクション担当 上級顧問。同社創業メンバーにして、日本ファッション界の重鎮のひとり
※2014年12月発行『i bought VOL.08』に掲載された記事です。
※価格・販売状況は掲載当時のものになります。