右近亨が選ぶ逸品 スーツ
メンズファッション誌「Them magazine」の編集長、右近亨が選ぶスーツを紹介。
ハイファッション誌のディレクター、編集長を務めた確かな目を持つ、右近亨を満足させたスーツとは?
右近亨が選ぶ逸品 スーツ TOKYO TIMES Column
目次
OFFICINE GENERALE
SUIT
この10年でスーツを着る機会が増えた。フリーランスの編集者という立場では、それほどスーツを着なければならないシーンというのはないのだが、歳を重ねていくと、「スーツを着たほうがよいのでは?」というシーンが多くなる。五十を超えて、ディレクターとか、編集長という肩書きもつくと、週に2〜3回はスーツを着る。
スーツも着慣れてくると、案外楽だ。まず、コーディネイトに悩むことがない。人から着こなしについて、あれこれ言われなくなる。よほどのことがない限り、いつどこの場所に行っても、それほど浮かないし、ハズすことも少ない。夏は辛いが、冬は(ネクタイをすると)意外に温かい。
春夏、秋冬で3着ずつ用意していると、それで着回せてしまうのだが、そこは「ファッション好きの洋服馬鹿」。年々、スーツの数が増えてゆき、今ではすっかり収納に困っている。もちろんスーツにもトレンドがあるので、5年前に買ったものは、今では袖を通しにくい。とは言え、なかなかそれを捨てられないのも「洋服馬鹿」たるゆえんか。
自分の中では、ダブルブレステッドのスーツにこだわっている。尊敬する故・加藤和彦氏に言わせれば、その人の体型によって、一生涯ダブルしか着れない人と、同じくシングルしか着れない人がいるそうだ。
中にはどちらも着られるような恵まれた体型の方もいるのだろうが、自分では「きっとダブルが似合う」と勝手に信じている。根拠は胸板が厚く、背が低く、顔が大きいから。だから、ダブルが似合う、という法則はどこにもないのだが、やはり勝手に納得している。
そのうち誰かに「前から言おうと思っていたんだけど、君の体型ではダブルは似合わないよ」と明確な理由で指摘されるまで、ダブルブレステッド偏愛でいこうと思う。
今年、購入したスーツの中でもっとも気に入っているのが、《OFFICINE GENERALE》のサマースーツだ。
このブランドは《オフィシン ジェネラール》と呼ばれているのだが、現在日本では正式な代理店がなく、並行輸入でセレクトショップなどに並ぶ。なので、ひょっとしたら、お店ごとに発音が違うかもしれない。なぜなら、このブランドはフランスのブランドで、デザイナーもフランス人のPierre Mahéo(ピエール・マヨと呼ぶのだろう)。
今年の6月にパリコレでデフィレを開いた。朝一番のショーで、小雨が降っていたせいもあり、あまり観客は多くなかった。日本人も僕を含めて数人程度。初めてコレクションを観たが、想像していた通りの「フレンチアイビー」だった。
《OFFICINE GENERALE》のスーツの最大の特徴はナチュラルショルダー。実にすっきりとした肩の仕立てである。アメリカの《サウスウィック》とも《マーティン・グリーンフィールド》とも違う、ツルンとしたなで肩。芯地もきちんと入っているが、アンコンのように着やすい。 ウエストのドロップも程良く効いている。若いうちはボックスシルエットも可愛いが、歳をとるとかなり野暮ったい。
昨年購入した《OFFICINE GENERALE》のグレーフランネルはシングルだったが、今夏は幸いダブルブレステッドも用意されており、しかも大好きなネイビーでくるみボタンという凝ったデザインだったので、ひと目で購入。パンツが多少太いのだが、これはお直しすればよいので、減点にならず。
グレーフランネルは「キャシディ ホームグロウン」で。ダブルのネイビーは「モアライド」から購入。八木沢博幸さん、藤野卓也さんとともに確かな目を持った方がバイイングしたマスターピースだと思います。
右近亨
ハイエンドなメンズファッション誌「Them magazine」の編集長。今年10月に発売となった最新号は10代特集、次号は’90年代特集を予定
※2014年12月発行『i bought VOL.08』に掲載された記事です。
※価格・販売状況は掲載当時のものになります。