梨木香歩の小説は「言葉という素材を使って織り上げられた美しい布」

梨木香歩は、児童文学の分野からデビューした女性作家だ。絵本など児童書の他に、大人向けの小説やエッセイ集も次々と発表。独特のしなやかな感性でものごとを捉え、リズム感のある文章でそれを物語に織り上げていく。そんな梨木香歩作品の魅力をお伝えしたい。

森野owlina

 

作家・梨木香歩の略歴 ~デビューまで~

1959年生まれ、鹿児島県出身。同志社大学卒業。大学在学中に英国留学し、児童文学者ベティ・モーガン・ボーエンに師事。

1994年に故・河合隼雄氏の縁で『西の魔女が死んだ』を出版、作家生活に入る。同作で出版の翌1995年、第28回日本児童文学者教会新人賞・第13回新美南吉児童文学賞・第44回小学館文学賞を受賞。

 

『春になったら苺を摘みに』 (新潮社)

梨木香歩「春になったら苺を摘みに」(新潮社)

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略歴にある「英国に留学しベティ・モーガン・ボーエンに師事」というのは、その2人の間にただ大学の教授と学生のような普通の師弟関係があったことを指すのではない。その関係は、最初のエッセイ集『春になったら苺を摘みに』に詳細に描かれている。

 

そこに出てくる(梨木香歩の住んでいた)「英国の下宿」の女主人・ウェスト夫人が、実はベティ・(ウェスト・)モーガン・ボーエンなのだ。

 

この本は梨木香歩という作家に興味を持たれた方に是非、読んで頂きたい一冊でもある。強い愛情の持ち主で独特の個性を持ったウェスト夫人という人が、彼女の作家活動に深く強い影響を与えていることが伝わってくると思う。

 

デビュー作が大ヒット、100万部を超えるロングセラーに

 『西の魔女が死んだ』 (楡出版/小学館/新潮文庫)

梨木香歩「西の魔女が死んだ」新潮文庫版

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梨木香歩本人は、デビュー前には作家になるつもりがなかったのだそうだ。執筆は自分自身のためだった。

 

ところが、当時彼女が翻訳の手助け等をしていた心理学者の河合隼雄に、書いた小説を読んでもらいたくて原稿を渡したところ、河合隼雄が「この作品を出版することは意味があるから」と、独断で出版社に持って行ってしまったという。

 

その小説がベストセラーとなった『西の魔女が死んだ』(※当初は児童書として刊行)、梨木香歩の処女作だ。河合隼雄が見抜いた通りに多くの読者の支持を得て、初版から20年経った今もなお読まれ続け、発行部数は100万部を超えている。

 

2008年には実写映画も

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単行本の出版当初から児童文学の世界では高い評価を得ていたこの作品。後に新潮社が文庫版を出してからは読者層が更に広がり、2008年には映画化もされた。

 

2007年にロケ地に建てられた「おばあちゃんの家」の建物は、2014年のGWまで一般公開されていた。単なるロケ用の設備ではなく、実用に耐える建築物が作られたのだからすごい。

 

小説の世界観が読んだ人の心にしっかりと根を下ろしているのだと感じられる出来事ではないか。

 

物語は1人の女子中学生・加納まいに、母方の祖母の死が告げられたところから始まる。西の魔女というのは、まいとまいの母が英国人の祖母を、2人だけの時に呼んでいたあだ名だった。亡き祖母の家に向かう車の中での回想という形で、その人がどんなに大切な存在だったかという思いが語られていく。

 

中学に入ったばかりの頃、学校に馴染めず、登校できなくなった彼女をただまっすぐに受け止めてくれた西の魔女。苦しい気持ちと格闘するまいの傍にいてくれた大好きなおばあちゃんと過ごした懐かしい日々・・・。

 

そう、洋の東西は違っても、人の心にとって大事なものは変わらない。西の魔女とまいは、それを分かち合っっていた。

 

梨木香歩の魅力的な小説作品たち(おススメ本)

最初の出版こそ「自分の意思ではなかった」という梨木香歩だが、作家デビュー後は次々と順調に作品を世に送り出す。

 

『裏庭』 (理論社ライブラリー/新潮文庫)

梨木香歩「裏庭」単行本(理論社ライブラリー)

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梨木香歩「裏庭」(新潮文庫)

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出版第2作目はこの本。1995年に刊行され、同年の第1回児童文学ファンタジー大賞を受賞。日本語の題は『裏庭』でも、英語のタイトルはふつう裏庭を指すときに使うBackyardではなく、庭園の意味を持つGardenなのがこの物語の深いところ。

 

『りかさん』 (偕成社/新潮文庫)

梨木香歩「りかさん」(偕成社)単行本

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児童文学作品『りかさん』は大人向けの小説『からくりからくさ』と平行して書かれた作品。

 

『からくりからくさ』 (新潮社)

梨木香歩「からくりからくさ」(新潮文庫)

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成長した蓉子と紀久・与希子・マーガレットの3人、そして市松人形りかさんの共同生活を描く。女性と染織というテーマも併せ持つ物語。

 

『家守綺譚』 (新潮社)

梨木香歩「家守綺譚」単行本(新潮社)

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2004年に刊行され、第17回山本周五郎賞の候補作となった。それまでの梨木作品とは違って西洋や中近東の色彩は影をひそめ、(明治・大正・昭和初期を彷彿とさせる)時代小説風に仕上げられている。

 

民話的な世界が現実界と混じりあったこの不思議な作品を、熱愛するファンは多い。続編に『冬虫夏草』(2013年、新潮社)がある。

 

『雪と珊瑚と』 (角川書店)

梨木香歩「雪と珊瑚と」(角川文庫)

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赤ん坊・雪の子育てに奮闘し、実母との葛藤に苦しみながらも、自分のカフェを作っていく若いシングルマザー珊瑚の1年を描く。 

 

『僕は、そして僕たちはどう生きるか』 (岩波現代文庫)

梨木香歩「僕は、そして僕たちはどう生きるか」(岩波現代文庫)

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吉野源三郎著『君たちはどう生きるか』へのオマージュ的な作品だが、梨木香歩らしい陰影に富み、巧みな自然描写がストーリーに彩りを添える。

 

物語を語りたいのだという思い

私はそれが私の本当にしたい仕事なのだと切実に思った。

 

物語を語りたい。

そこに人が存在する、その大地の由来を。

出典:梨木香歩著『ぐるりのこと』

2004年に出版されたエッセイ集『ぐるりのこと』(新潮社)の掉尾を飾るエッセイ『物語を』で、綴られている言葉である。

 

人が存在する、大地の由来-。

 

そうだ。梨木香歩の作品で印象的なのは、登場する人々だけではない。

そこに出てくる、街並み、道、家、山、川、木々、草花、動物たち。そういった全てがとても魅力的なのだ。

 

そのことが、彼女の作品に、ただ現代の小説というだけではない「語り継がれていく物語」の性質をも帯びさせているのかもしれない。

 

3.11(東日本大震災)と対峙、喪失体験と向き合って

『海うそ』 (岩波書店)

梨木香歩「海うそ」(岩波書店)

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そして2014年に上梓された長編小説『海うそ』で、梨木香歩はとうとう南九州の海上に、架空の離島「遅島」を作り上げてしまう。その地誌学的な下地づくりの緻密さには目を見張るばかりだが、この作品で梨木香歩はもうひとつ大きなチャレンジをしていた。

 

死と喪失に直面し、生きる意味を問い直していく。おそらく人間にとって一番難しいもの(のひとつであろうこと)に向き合うこと。

 

 

 

マッドガイド・ウォーターシリーズ始まる

『岸部のヤービ』 (福音館書店)

梨木香歩「岸辺のヤービ」(福音館書店)

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2015年9月に出版された梨木香歩の最新作『岸部のヤービ』。ハリネズミのような小さな生きものの男の子ヤービに出会った学校の教師「わたし」が語る、児童向けとはいえ本格的なファンタジー作品だ。もちろん、続編も予定されているもよう。

 

 本の献辞は「永遠の子どもたちに」。

 

今までの作品テイストとはひと味違った明るさに、あるいはとまどいを覚えるファンもいるかもしれない。けれども作り込まれた世界の中には梨木香歩らしさが随所にひそみ、物語のあちこちから不意に顔を出してくる。

 

新しい梨木ワールドの展開を、こちらもワクワクしてドキドキしながら待つことにしたいと思う。

 

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この記事を書いたライター

森野owlina

メガネフクロウが、人間の世界を覗いてあれこれ語ります。ペコリ。

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