宇江佐真理-江戸の情緒と時代の空気を描き続けた女性時代小説家

作家・宇江佐真理の訃報(2015年11月7日、乳がんのため66歳で死去)に私たちが接してから、まだ日も浅い。宇江佐が描く、人情味にあふれた物語の続きは読めなくなるのだ・・・。一ファンとして、作風や代表作・映像化作品などをご紹介したい。

森野owlina

北海道から江戸の人情を発信し続けた宇江佐真理

函館に住む主婦兼作家は、自宅の台所で時代小説を書いていた

作家・宇江佐真理(うえざ まり)、本名:伊藤香(かおる)。大工のご夫君と2人の子息を持つ主婦だった。

 

北海道の南、函館の街で生まれ育ち、地元の函館大谷女子短期大学(現:函館大谷短期大学)を卒業。(未来の江戸である)東京は言うに及ばず、函館市外に住んだことも全くなかったのだとか。

 

キッチンの一角に書斎がわりの仕事用スペースを作り、原稿はいつもそこで執筆していたのだという。

 

 江戸の風情を書くには「想像力」があれば

そんな宇江佐真理だが、小説家デビュー以来、執筆する小説は時代物ひと筋。江戸時代と江戸の市井の物語を書き続けて20年、その著書は昨年までにおよそ70冊ほど出版されている。

 

北海道に住みながら江戸を描くことについて、本人は「地方にいるほうが想像できる」と語っていた。

 

高知出身の時代小説家・山本一力とは親交が深かった

直木賞作家の山本一力とは、お互いに地方出身の時代小説家ということもあり、親交があったという。(宇江佐真理は北海道在住、山本一力の住まいは現在は深川だが、出身は高知県。)

 

文藝春秋社のサイト「本の話」には氏の手による宇江佐真理の追悼文が寄稿されている。

 

編集者の目から見た宇江佐真理のイメージはこんな感じだったらしい?

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エッセイ集の文庫化にあたり、なじみの担当者に表紙のデザインを任せきっていたところ、出来上がったのがこの絵だそう。

 

なんだか江戸の肝っ玉母ちゃんが、函館に引っ越してきて張り切っているような感じ(!?)。見ていると思わず親近感が湧いてくる、という読者も多いんじゃないかと思う。

 

宇江佐真理の描く男女の心模様は、じれったく時に切ない。

けれども作品の方はどうかと言うと・・・、粋で伝法な江戸っ子が威勢良く啖呵を切る痛快時代小説!!・・・では、ない。そう、宇江佐真理の小説に出てくる登場人物は男女ともども一癖も二癖もあって、まるで「人生の袋小路に迷い込んでいる」真っ最中みたいな人たちばかりなのだ。

 

でも、そんな登場人物たちの心の襞を細やかに描いた彼女の作品には、読む人の胸の奥深くに届く何かが、たくさんたくさん詰まっている。

 

『卵のふわふわ 八丁堀喰い物草紙・江戸前でもなし』 (講談社)

「卵のふわふわ 八丁堀喰物草紙・江戸前でもなし」

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八丁堀の同心に嫁いだのぶは、屈折した夫の心に添うことができず苦しむ。食い道楽でやさしい舅にいつも助けられているけれど・・・。

 

素直になれない胸の痛みや、すれ違う夫婦の心の温度差、それでも徐々に結びつきが深まっていく夫婦と家族の絆を描いた名作。

 

宇江佐作品に興味を持たれた方がいたなら、是非一度お手に取って頂きたい小説がこれ。作中、舅にせがまれてのぶが作る食べ物の描写も、しみじみ良い。

 

『甘露梅~お針子おとせ吉原春秋~』 (光文社)

宇江佐真理著書「甘露梅」(光文社文庫)

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夫に先立たれたおとせは縫い物が得意。息子や嫁と暮らすのは気が重くて、お針(子)として吉原の見世に住み込みで働きに出てしまう。世間知らずの主婦だったおとせが吉原で見た、粋で華やかな遊郭の四季。そして花魁たちの恋模様と・・・。

 

『雷桜(らいおう)』 角川書店

宇江佐真理著書「雷桜」角川文庫

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江戸から旅程3日を要する山間の村・瀬田村に、庄屋の娘として生まれた遊(ゆう)の数奇な運命を描く。宇江佐真理の小説としては少しだけ異色な、幻想的な雰囲気が色濃く漂う恋物語だ。

 

『雷桜』は2010年に映画化される

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この作品は、蒼井優・岡田将生の主演で映画化(監督・廣木隆一)が実現、2010年10月に公開されている。瀬田村の側には瀬田山と名付けられた山があり、遊はその山で子ども時代を過ごす。

 

雷桜は瀬田山に生えている、雷に打たれた銀杏の樹に根付いた桜だ。遊にとって雷桜は友達のように大事な樹だった。

 

映画の公開にあわせて漫画化も

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映画の公開にあわせ、八咫緑(やたみどり)の作画での漫画化作品も発表された。(月刊ASUKA連載→アスカコミックス収録)

 

辛いことも自分の過ちさえも、受け止めて生きる人たち

宇江佐作品では、女性たちだけじゃなくて男性陣も、困難や逆境に簡単には負けずに、頑張って踏ん張って生きている。

時にはたくさん間違いもするけれど。

 

『あやめ横丁の人々』 (講談社)

宇江佐真理著書「あやめ横丁の人々」講談社

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旗本の三男、紀藤慎之介。婿養子となって祝言を挙げるはずだった笠原家の七緖には間夫(まぶ=恋人)がいて・・・。ゆえあって慎之介が隠れ住んだあやめ横丁とはいったい!?北海道新聞の夕刊に連載された新聞小説。

 

『聞き屋与平 江戸夜咄草』 (集英社)

宇江佐真理著書「聞き屋与平-江戸夜咄草」集英社

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「お話、聞きます」。

両国広小路の薬種問屋・仁寿堂の与平は、息子に見世を譲ったあと、日暮れに裏の路地で机と腰掛を出すようになった。

 

黙々と訪れる人の話を聞き続ける与平。訪れる人々の話に、心を揺すぶられる読者。そして与平の胸にあるものは・・・。

 

宇江佐真理のライフワーク『髪結い伊三次捕物余話』 

1995年、時代小説『幻の声』がオール讀物新人賞を受賞、宇江佐真理は小説家としてデビューを果たす。

そして、この作品を皮切りに、『髪結い伊三次捕物余話』シリーズが開幕。最晩年まで書き続けたライフワーク作品だった。

 

捕物余話という名前ではあっても、むしろおまけ(余話)は捕物の方で、本筋なのは人と人との関わりと、江戸の市井の人情話だ。

 

『幻の声』髪結い伊三次捕物余話 (文藝春秋)

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第一作『幻の声』所収の単行本は1997年4月に出版される。シリーズは中・短編連作の形式を取り、オール讀物誌に連載されていた。

 

表紙の男が主人公の伊三次(いさじ)だ。手に持つのは髪を結うために持ち歩く道具箱。右側の後ろ姿の女は、恋仲の辰巳芸者・文吉(ぶんきち、本名お文)姐さん。

 

主演・中村橋之助(伊三次)。他に出演は涼風真世(文吉)、村上弘明(不破友之進=伊三次を手下にしている北町奉行所の同心)など。

 

J-WAVE(FMラジオ)の書評・トーク番組「BOOK BAR」で杏が紹介

FM J-WAVE BOOK BAR 杏ちゃんの一冊 2015年11月28日放送分。

女優/モデルの杏は宇江佐真理の小説が大のお気に入りだと色々なところで語っている。作品が映像化されるなら是非出演したいそう。

 

『月は誰のもの』髪結い伊三次捕物余話 (文藝春秋)

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2014年10月10日に刊行された、髪結い伊三次シリーズ13冊目と14冊目の間に文庫版で出されたSpecial Story。シリーズ唯一の書き下ろし長編作品。

 

『竈(へっつい)河岸』髪結い伊三次捕物余話 (文藝春秋)

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シリーズ最新刊(単行本)は2015年10月31日に刊行。そして著者はそのわずか7日後の11月7日に、この世を去った。

 

最後の作品は新聞連載小説『うめ婆行状記』

2015年12月22日、朝日新聞で遺作の『うめ婆行状記』が2016年1月12日から夕刊連載されると発表があった。

3月中旬まで連載予定ということで、未完の作品なのだと思うけれど、最後の最後まで執筆されていたのだなと感慨深い。

 

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森野owlina

メガネフクロウが、人間の世界を覗いてあれこれ語ります。ペコリ。

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